富士山の水には微量元素バナジウムが他の地域より多く含まれていることが1968年に初めて報告されて以来、我々の調査も含めていくつもの研究でそのことが確認されています。一方、1987年にバナジウムには糖尿病治療効果のあることが報告されたことから、富士山の水の糖尿病治療効果の有無に関心が集まっています。はたして富士山の水には糖尿病治療効果はあるのでしょうか。
 通常自然界の水に含まれるバナジウム濃度はおおよそ0.001mg/Lですが、富士山の水には、0.05〜0.1mg/L程度のバナジウムが含まれています。つまり、他の地域の水より50〜100倍高い濃度です。
 それに対し、1987年の報告では、糖尿病ネズミ(ラット)に約340mg/Lのバナジウムを含む飲み水を与えた結果、約400mg/dlであった血糖値が4日間で約100mg/dlの正常値に戻ったとされています。
 我々の実験でも100mg/Lのバナジウムを含む水を高カロリー食を食べている糖尿病ネズミ(マウス)に与えた場合は、血糖値が正常値に近づきました。しかしながら、0.1mg/Lの水には全く効果がありませんでした。また、3世代にわたって0.1mg/Lのバナジウムを含む水を糖尿病ネズミに与え続ける実験も行いましたが、その場合でも全く効果は認められませんでした。
 これらの数値や実験結果を見る限りでは、いくら他の地域よりバナジウム濃度が高いといっても、富士山の水に含まれる濃度のバナジウムに糖尿病治療効果は期待できないと考えられます。
もし、動物実験と同じバナジウムの糖尿病治療効果を期待するならば、人は富士山の水を1日に1トン以上飲まなければならない計算になります。
 最近、当研究所には一般の方々から、富士山の水による糖尿病治療に関する問い合わせがあります。中には、富士山の水を飲み始めたら、血糖値が下がったという方もいます。もしそれが事実なら興味深いことですが、前述したようにバナジウムの効果は期待できないので、私どもはそれ以外の要因で血糖値が下がった可能性を考えています。
 糖尿病の場合、水分不足は禁物で、糖尿病治療の専門医によると、水分摂取量を増やすことによって血糖値が下がる可能性があるといいます。また、高齢者の場合は慢性的脱水状態になっていることが多いので、その場合は糖尿病に限らず意識して水分を補給することで体調が良くなることはまず間違いないとのことです。つまり、水分摂取そのものが糖尿病の症状改善や体調改善に効果的である可能性が考えられています。
 山梨県は、県土の78%を占める森林を背景として、豊かで良質の水を有し、ミネラルウォーター生産量は日本一です。富士北麓にもその採水地があり、いわゆる「富士山の水」も比較的簡単に安価で手に入れることが出来ますが、富士山の水に限らず、山梨の良質で美味しい水を意識的に飲むことによって、人々の健康が維持・改善されるのであれば喜ばしいことです。

写真:米国ではバナジウム入り錠剤が自由に購入できますが、糖尿病治療効果は証明されておらず、また医薬品ではないので「この錠剤が糖尿病に効く」とは書いてありません。この錠剤と同じ量のバナジウムを富士山の水から摂取するには、一日に30リットル以上飲まなければなりません。